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3000本もの授業動画をアップした先生の本当の目的とは |四條畷学園|小森一平先生

更新日:2023年4月19日


今回訪問させていただいた四條畷学園高等学校は大阪府大東市にある伝統校です。大正15年(1926年)に四條畷高等女学校が設立され、『報恩感謝』の建学精神を引き継ぎながら現在に至っています。

四條畷学園に勤めて15年目になる小森一平先生は、これまでなんと3000本以上の授業動画を撮影して生徒に共有し、生徒の学ぶ力を高めているとのことで、今回特別に授業見学とインタビューをさせていただきました。

〈 四條畷学園・小森一平先生の授業動画一例 〉

小森先生が授業で大切にしていることとは。いかに動画を作成するのか。そして3000本以上の動画を作成した本当の目的とは。


授業開始前から自発的な学習がスタート

今回見学させていただいたのは、6年一貫コースの5年生(高校2年生)の選択科目(世界史)「百年戦争」の授業です。

授業開始前の休み時間。小森先生が本時の学習事項を簡潔にまとめた内容を板書している間に、生徒たちは何やらプリントを見直したり、生徒同士で前時の学習事項を確認し合ったりしていました。

〈 授業開始前・休み時間の様子 〉

小森先生の授業の冒頭は必ず前回の復習からスタートするように設計されていて、毎回確認のための質問を5~6問するそうです。今回も先生が次々と質問し、生徒がテンポよく答えていました。生徒たちはこの復習テストに即座に答えられるよう授業前から準備をしていたのです。

昨年度から小森先生の授業を受けてきた生徒たちは、この授業スタイルを継続するなかで、先生から指示されるのではなく、自ずと授業前から学習をスタートする習慣を身につけていったそうです。生徒たちの意識の高さが授業の冒頭から感じることができました。


圧倒的な教材研究から作成された学習プリント

小森先生の授業は、主に自作の学習プリントを基にして展開されます。「世界史プリント・完全版」と名付けられたその学習プリント(全120枚)は、複数の教科書や用語集の内容をベースに「生徒たちの思考の形跡がきちんと残る」よう緻密に作り上げられたもので、誰もが理解しやすいように工夫されています。また、小森先生は模試や入試で出題される内容も徹底的に研究して学習プリントに反映させており、生徒の1人は「模試で出題される内容は全てここに載っている」と、体系化されたこのプリントの使いやすさや重要性を理解しているようでした。

〈 今回の授業プリントの一部のデータをご覧いただけます 〉



生徒たちの考えを引き出して理解を深める発問

かつて、小森先生は大学受験に特化した授業を展開していたそうです。システマチックな授業展開で、「生徒たちの自由な発想を引き出し、その素晴らしさを教室で共有し合う」ことができていなかったそうです。

しかし、生徒たちの魅力、想像力の豊かさに気づき出してからは、授業スタイルが変わっていき、今は、生徒たちが思わず「なぜ?」と考えたくなるような発問や仕掛けが授業中にたくさん用意されています。例えば、「フランスとイギリス王室の家系図をよ〜く見れば、百年戦争のきっかけとなった人物が誰だかわかります。誰だと思いますか? そしてそれはなぜですか?」「弓道部の弓は何メートル先の的を狙いますか? 百年戦争のときの長弓隊の弓はどれくらい飛んだと思いますか? どれくらいすごいことだったか、弓道部の弓と比較して考えてみよう。」などの発問がされ、生徒たちはペアやグループで考えて、自由な発想を出し合っていました。また「この問題の答えのヒントは、実は授業の冒頭に伝えていますよ!」という仕掛けがあって、生徒たちがワクワクしながら答えを考える場面も見られました。そうやって生徒たちは、自分たちで考えたことや、あとで先生の説明を聞いてまとめ直したことを、学習プリントの余白部分に次々書き込んで理解を深めていました。

〈 生徒が書き込んだ今回の授業プリント 〉

毎時間授業を撮影

小森先生はこれまで3000本以上の授業動画を作成していますが、撮影方法は至ってシンプルです。教卓の前に三脚とスマホを設置して、動画を撮影しています。黒板と先生の様子だけが映るようにし、生徒のプライバシーにも配慮しながら撮影をしています。


このようにして撮影された動画は、授業後、Googleドライブにアップロードされ、授業プリントの番号ごとに整理されたフォルダに保存されます。生徒にはこれらの授業動画へのリンクを共有し、いつでも見ることができる状態にしています。

今回見学させていただいた授業動画の一部を特別に公開していただきました。


〈 小森先生の授業動画一例をご覧いただけます 〉

「愛」のある授業

小森先生の話し方は、とてもはっきりとしていて、自然と耳に入ってきます。さらに、重要なポイントなどは抑揚をつけて話されるので、重要箇所がスッと頭に入ってきます。また、話し方に全く淀みがなく、聞いていて不快感が全くありません。

授業後に秘訣をお聞きすると、なんと「その授業を受けてくれる生徒たちを思い浮かべながら、毎時間事前に簡単な台本を書いている」とのことでした。個性豊かな生徒たちの反応を想像しながら、伝わりやすい言葉・話し方を工夫しているそうです。また、授業が終わるたびに、自ら撮影した授業動画を振り返って、伝え方を研究したり、授業の反省をされているそうです。


そして、小森先生の授業は「見ているだけでも楽しくなるような工夫」が散りばめられていました。先生の語り方、コミカルな動き、信頼関係から生まれる生徒との対話などは、授業の枠を超えて愛のあるエンターテイメントだと感じました。



インタビュー

授業見学後に小森先生のお話を聞かせていただきました。

授業力を高めるための秘訣、動画撮影を始めたきっかけ、新型コロナの流行が与えた影響とは。

ーー四條畷学園で15年目を迎えている小森先生ですが、教師を志した理由は?

教師を志した明白な理由はありません。ただ「教育はこの社会の中でとてつもなく大切なもの」だということは、高校生の頃から思っていました。

ーーその豊富な世界史の知識をどうやって身につけたのでしょうか?

私の専門は世界史ではありません。高校時代は日本史選択で、大学院までは倫理や哲学を専門に学んでいました。私が最初に赴任した学校で初めて世界史の教科書をきちんと読みましたが、はっきり言って内容がわからずに衝撃を受けました。これは「地名」なのか「国名」なのかも判別できず、そもそも教科書の文章は「主語」が抜けているものも多いので、誰がしたことなのかも分からない(苦笑)。だからこそ、その学校の先輩教員から世界史の基礎を教わりながら、空き時間は片っ端から参考書類を読み漁り、1つ1つ丁寧に感覚を獲得していきました。ゼロからの学びは本当に大変でしたが、2年くらい経つと倫理や哲学の素養も融合された「世界史の土台」が私の中で出来上がり、そこから先は授業に合わせて日々学び続けています。ちなみに、そんな私が手に入れた大きな力の1つが「世界史がわからない生徒がどこでわからなくなるのかがわかる力」です。生徒たちが「どこでつまずくのか」が私自身、身に染みてわかっている。だからこそできる授業があるかと思います。知識がゼロだった経験が今ではむしろ私の宝になっています。


ーー今や3000本以上の動画を作成されていますが、もともと動画撮影を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

3年前にGoogleドライブの存在を知り、これを利用すれば「欠席者」や「様々な事情から学校に来れない生徒たち」に普段の授業をそのまま見てもらえると思って動画撮影を始めました。2年前からはGoogle for Educationをフル活用してドライブ内に授業動画を溜め込んでいき、現在はプリント120枚分の動画がそろっています。これにより、昨年は例えば体調不良でほぼ1年間登校できなかった生徒が自宅ですべての授業を視聴することができました。また、今年3月からの休校期間中は、前年に撮っていた授業動画を時間割通りに配信し、生徒たちの学習機会を確保することもできました。


ーー欠席生徒のために始めたということですが、普段は生徒たちに動画を見ることを課題として出しているのでしょうか?

授業後にアップロードされる動画は、前述のような形で生徒たちに利用してもらうこと以外に、夏休みなどの長期休暇中に見てもらって授業を進めるという使い方もしています。しかし、普段はあえて見ることを課題とせず、あくまでも生徒の自発的な学習のための1つのツールとしています。

生徒に聞いた話では、彼らが授業の復習をする際、学習内容の繋がりを思い出せない時に授業動画を見直すそうです。指示されて見るのではなく、生徒たちが自分の状況に合わせて動画を活用する。そうやってそれぞれで使ってもらえればと考えています。


ーー今後はどのような動画の活用をお考えでしょうか?

今は、「学習機会の確保や習得のツールとしての自発的な活用など、一人ひとりの学びの一助になれば」という思いで、学習プリントのデータや授業動画を公開するサイト「高校世界史教室」をつくり始めています。今後は学校の枠を越えて1人でも多くの人に活用してもらえればと考えています。


ーー今年のコロナ休校をきっかけに変化したことはありますか?

授業スタイルが変わったかもしれません。スタイルというよりも心の変化かもしれませんが。これまでは授業ができるのが当たり前で、今思えば、口では「生徒たちに感謝」と言いながらも、「感謝」の意味を本当にはわかっていませんでした。

コロナ休校中、生徒と会えず、はじめて長期間に渡って対面で授業をすることができなくなったとき、「今まで授業をさせてもらっていたんだな」「幸せだったんだな」と心の底から感じるようになりました。四條畷学園の建学の精神は「報恩感謝」ですが、まさに「感謝」の気持ちで授業をしようと自然に思うようになりました。学校再開後、6月以降は本当に楽しく、明るく授業をさせてもらっています。それはすべて、授業を受けてくれる生徒たちのおかげです。



終わりに

 「一言で『すごい』授業です。」

授業後に話を聞かせていただいた生徒の1人はこう語っています。

小森先生の授業は説明が分かりやすいし、覚えやすくて、興味も持てます。模試や入試にもきちんと対応しています。復習をしていて、理解が浅いと感じたところは、授業動画を見て振り返ることができます。小森先生のおかげで子どもが勉強するようになったと感謝する保護者の方もいるそうです。一言で「すごい」授業だと思います。


オンライン活用のヒントに

コロナ休校によって日本中がオンライン授業の在り方を模索するようになりました。多くの学校や自治体では授業動画を作成しYouTube等で配信するという取り組みがなされました。しかし、学校が再開された今でも継続して動画を作成しているところは少ないのではないでしょうか。

臨時休校のためだけの授業動画作成ではなく、日常から生徒の主体的な学習のためのツールを提供することを目的に動画をアップロードされている小森先生の手法とその情熱は、全国の先生方の参考になるのではないでしょうか。


謝辞

今回、取材を快く引き受けていただい小森先生をはじめ、生徒の皆様、四條畷学園の皆様に感謝いたいします。



Written by 脇田誠 (国際エデュテイメント協会)


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